「ふふふ〜」

ご機嫌そうな声が夜の食堂から漏れ聞こえてくるのに気づいて、ふと足を止めた。








できたっ!






「…?」

キラが覗き込んでみると、薄明かりの中に大きな背中。

「ムウさん…?」

「おっ、キラ。な〜にやってんだ、こんな時間に」

「マードックさんに呼ばれてたんですよ…。ムウさんこそこんな時間に食堂で何やってるんですか?」

その言葉をまってましたとでも言うように、ムウの顔がにんまりと緩む。

(…なんか話がながくなりそうだな…)

疲れていて、早く自室に帰ろうと思っていたキラの心に後悔の念が浮かぶ。

「あと10日しかないからな。さて、キラくんに問題ですっ。10日後には何があるでしょ〜♪」

妙にテンションの高いムウにわずかに肩をすくめながら、考える。

(えっと、今日は10月2日だから…10日後…)

「ああ、マリューさんの誕生日ですよね、そういえば…」

「そういえば、とはなんだ、そういえば、とはっ。艦長の誕生日をそういえばよばわりするなんて。クルーとしてどうかと思うぞっ」

「…10日も前からそんなにテンション高いのもどうかと…」

そう言いながらも、そんな言葉がムウに通じないというのはわかっている。


(まぁ、僕もラクスの誕生日が近かったらワクワクするもんな…)


誰だって、好きな人の誕生日が近くなったらプレゼントの準備に、当日の段取りの確認に、とそわそわしだすのは当然だ。


「で、何をやってるんですか?」


「よくぞ聞いてくれました! プレゼント手作りにしようと思ってさ、カタログみてたんだ。ほら」

そういってキラの前に差し出されたのは、手作りロボットのカタログ。トリィに似た鳥型ロボットや、オカピのような犬型ロボットがたくさん載っている。

「作るんですか!? ムウさんが?」

意外そうな声音に、ムウがキラの頭を拳でぐりぐりと攻撃する。

「なんでそんな意外そうな声だすんだよ。いや、ほら、お前のトリィだとか、ピンクのお姫さんのハロだとかを見て、マリューが可愛いっていってたからさ…」

だから…とムウが口ごもるのをみて、キラはこの年上の少佐を可愛い、と思ってしまう。


「お前らみたいな子供にも作れるんだから、この俺に作れないわけない。俺は不可能を可能にする男だからなっ」

慌ててそう付け加えるところを見ると、あまり製作に自信はないらしい。

キラもあまりマイクロユニット製作が得意でないために苦笑いを返した。



「…もしかして結構難しい…?」



キラの反応を見て、ちょっと恐れをなした感のあるムウが顔をしかめる。

「んー、どうでしょう。物にもよると思いますが…」


「…お前らは工業カレッジ出だしな…。やっぱりあと10日でちょちょいと作るのは無理か〜」


完成したやつは載ってんのかな…と肩を落としカタログのページを捲るムウを見ているとついつい「手伝いますよ」といいたくなって

しまう。しかし、キラとて苦手な部類に入るのだ。軽々しく手伝う、などといってもいいのだろうか…しばし2人に沈黙が訪れた。


「キラ、少佐…何やってるんですか」


「「サイ!」」


沈黙を破ったのは、ひょっこりと顔を覗かせた当直あがりのサイであった。

「…なっ…なんですか…?」

突然キラとムウにすがるような目で見つめられて、顔を覗かせてしまったことに一抹の後悔を覚える。


(…なんか話がながくなりそうだな…)




「…なるほど。で、少佐はどのタイプを作りたいんですか?」

一通りの説明を聞き、ほぼ強制的に手伝いが決まったサイが助け舟の出現にご機嫌になったムウを見る。


「うーん、どれも捨てがたいよなぁ…トリィみたいにいつも肩に乗せて歩けるってのもいいよな。

でもオカピみたいに荷物を乗せられるやつもいいよなぁ」

「ああ、確かに艦長はいつも書類とか抱えてて大変そうですもんね。だったら、この犬型のロボットが…これだったら10日もあればで

きるんじゃないですか?トリィみたいに飛ぶタイプだと運動機能のプログラム大変ですけど、地面を歩くだけのタイプならそんな

に…」


「そうだね、これならプログラミングも結構簡単だし、ムウさんでもそんなに苦労なくできると思いますよ。」

「そっかそっか、じゃあこの犬型ロボにしようかな。じゃ、明日必要パーツを機関部の奴らに調達してもら…」




「あら、マリューさんはハロがお好きだとおっしゃってましたわ」


「ラクス…」

(せっかく話が終わりかけたのにっ…)


サイの心の叫びもむなしく、にこにこと微笑みながら食堂に入ってきたのはラクスだった。



「なかなかキラが戻ってこないので探しに来たら…みなさん楽しそうなお話してらっしゃるんですもの」

どうやらキラの部屋に泊まりにエターナルからこちらに来ていたらしい。



「せっかくなのでハロをプレゼントしてさしあげたらいかがですか? ピンクちゃんたちもお友達が増えたら嬉しいですわよね」

ラクスがそういうと『ラクス〜』とハロが飛び跳ねた。

「ほら」

「いや、ラクス、ハロは…」

そういうとキラとサイは顔を見合わせた。ムウは一心にカタログをめくってハロの作り方を探している。


「ラクス、ハロはアスランのオリジナルなんだよ…」

「俺たちには作り方もわからないし…」


キラとサイの言葉にムウががっくりと肩を落とした。


「あら、作り方なんてこうすればわかりますわ。ネイビーちゃん、ちょっとおねんねしててくださいね」


そういうとラクスはもう1匹ついてきていたネイビーのハロのスイッチを切り、「せぇの」と振り上げた。



「わわわわっ…そんなことしたらこわれちゃいますよっ」


ラクスがハロを叩きつけようとしていることに気づいたサイが止めに入る。


「あら、そうしたらまたアスランに直してもらうから大丈夫ですわ」


そういってラクスはにっこりと笑った。


「いやぁ、作り方を見る前に粉々になっちまうと思うぜ…」


さすがのムウもちょっとあきれた表情でラクスを見て、それからあーあ、と天井を仰いだ。

マリューがハロをほしがっているとわかった今は、先ほどまでは最高のプレゼントに思えた犬型ロボももはや色褪せて見える。


「そうですか…。それならば…」


ラクスはとことこと歩いて、食堂にある通信端末を操作しはじめた。

「ラクス?何を」

キラがラクスの方に手を伸ばしかけた瞬間、ブンっと低い音がして、食堂にミリアリアの顔が浮かび上がる。



「はい、こちらブリッジ…って、みんなこんな時間に食堂で何を…」

当直中のミリアリアがラクスと、その後に疲れたように座り込んでいる3人に目を向けた。

「ミリアリアさん、お願いがあるんですの。エターナルと回線をつないでいただけませんか?」

「…え、ええ、いいですけど、こんな時間に…?何かあったんですかっ…!?」


深夜に通信をつなぐなんて、何か緊急事態なのでは、と一瞬ミリアリアの顔がこわばる。
「ええ、ちょっと緊急の用がありまして…アスランと連絡をとりたいんです」

「わかりました。ちょっと待っててくださいね」


そういって一瞬ミリアリアの映像が消え、やがて画面にアスランが映し出された。

「ラクス?こんな時間に緊急の用って…何かあったのかっ?」

アスランは急な通信に少し寝乱れた様子でこちらを見つめている。

やがて、彼女たちがいる場所が食堂であること、後ろのキラたちが脱力しているところをみて、ため息をついた。

「こんな時間にどうしたんです?」

「アスランにお願いがありますの。今からアークエンジェルへ来ていただけませんか?」

「これから…ですか?」

一瞬アスランの視線が画面から逸れた。おそらく、その視線の先には時計があるのだろう。

「ええ、ちょっと急を用するお話なんです。食堂でお待ちしていますわ。あ、できればカガリさんもお連れになってくださいな」

「カガリも…?ラクス一体…っ」

言うだけ言うと、ラクスは一方的に通信を切ってしまった。何か言っているアスランの映像が荒っぽく消える。



「ラクス…」

なんだか話が大きくなっている。あの調子だと、心配もののアスランのこと、何があったのかと慌てて駆けつけてくるに違いない。


「これでいいですわ。少佐、少々お待ちくださいね」

ラクスの微笑みを見ながら、3人は心の中で大きな大きなため息をついた。





 しばらくして、カガリを連れたアスランがばたばたと食堂に駆け込んできた。


「一体なんなんだ、こんな時間に…」

やってきた2人は、ラクスと、その後ろでアスランに向かって手を合わせて謝っている3人を見た。


「アスラン、遅いですわ。」

「いや、カガリを起こすのに時間がかかって…」

「何なんだ?こんな時間に…」

カガリはまだ眠そうだ。


「アスラン、ハロの作り方を教えてくださいな。あと10日で作らなければなりませんの」


そんな2人の様子は無視して、ラクスがにっこりと笑う。

「…そんなことでこんな時間に呼びだしたんですか?」


アスランの『そんなこと』発言に一瞬ムウが顔をしかめたのがキラの視界の端に映る。

しかし、さすがにムウもアスランに悪いと思っているのだろう、何も口にはしなかった。


「そんなことではありませんわ。これは大切なことですのよ」

「あと10日?何があるんだ?」

楽しいこと好きなカガリの目がだんだんと輝きを増してくる。


「マリューさんのお誕生日ですわ」

「そっかっ。じゃあみんなでプレゼントの相談をしてたんだなっ。面白そうっ 私も手伝うぞ、何をすればいい?」

「みなさんでハロをプレゼントしますのよ。何色がいいかしら…」

「ラミアス艦長は何色が好きなんだろうな…」


ラクスとカガリは2人でにこにことプランを立て始める。その様子を見ていたキラとアスランは、顔を見合わせて肩をすくめ、必要パー

ツについての相談を始めた。


「…みんなでプレゼント? みんなでぇ?」


(部屋に戻りたい…)


その様子をぼんやりと眺めながら、ムウとサイは別々のことを考えつつ、同じタイミングで大きくため息をついた。











こうして、翌日からアスラン監督の下、ハロ作りが開始された。 ミリアリアを仲間にいれ、女性陣3人はカラーリングや搭載機能に

ついて話し合っている。

男性陣は次々と出される無理難題な案にため息をつきながらプログラミングとボディーの組み立てを行っていた。

「違う、そこはそっちじゃなくて、こっちに組み込むんですよっ」

鬼監督アスランの指導は厳しく、素人のムウと、不得手なキラは何度も何度もやり直しをさせられている。サイはそこそこ出来るも

のの、やる気のなさ故か、組み立て速度は遅く、製作スピードはぎりぎり間に合うか、といったところである。







マリューに見つからないように真夜中の食堂で行われた会合は、結局前日の夜中までかかってしまった。

「できたぁぁぁぁぁぁぁ〜っ」


ムウが最後のパーツを取り付け、マリュー専用ハロが出来上がったのはもう明け方であった。


この10日間、全員がほぼ徹夜状態であったが、出来上がった瞬間は全員で飛び上がって喜んだ。


結局、ハロはムウと同じ、金髪碧眼。ちょっと不気味な感じもしなくもないが、全員の愛はこもっているから、よしとすることにした。


「少佐、間に合ってよかったですね」

一番最初からこの計画に加担していたキラが握手を求める。

「いや〜、ほんとみんなのおかげだな。ありがとう、ありがとうっ」

ご機嫌なムウは全員と握手してまわり、ハロを抱きしめる。

サイを除く全員が、そのちょっと異様な光景を気にもせず、よかったよかった、と互いに喜び合っている。



(はぁ…)


サイだけが、引きつった笑いを浮かべていた…

(ビームが発射されるだの、フラガ少佐の声でしゃべるだの、フラガ少佐サーチだの、変な機能が搭載されなくてよかったよ)

却下された数々の案を思い浮かべ、艦長の苦労を思う。


「さぁ、少佐、マリューさんに渡しにいってくださいなvv」

「そうだぞ、片付けは私たちがやるから、早く早く」

「艦長ならさっき艦長室に戻るって言ってました」


彼女の誕生日に手作りのプレゼントを… というその案をいたく気に入ったラクス・カガリ・ミリアリアは 待ちきれないようにムウを艦長室の方へ押しやる。


「僕たちのお祝いは、午後からということで、それまではムウさんに譲ります。  仕方ないけど。」


「少佐、あまり強く抱きしめると壊れますから気をつけて…」


キラとアスランも、ご機嫌なムウと、何よりも、満足そうな自分の彼女の様子を見て微笑んだ。


「…ブリッジには俺が言っておきますね…」


ようやく徹夜から開放される、とサイも苦々しく笑ってムウ送り出した。














 そうして出来上がったマリュー専属ハロ。  









しかし、その日以来、人前に出てくることはなかった。


「あ…あれは、マリューが壊れるといやだわ、って部屋の中だけで大事にしてるんだよっ…」


ムウの言い訳はそういうことだったが、人工知能の設定をしたサイは知っている。

ムウの性格をプログラミングするよう迫られたため、サイはできる限り 忠実に再現したのだ。 おかげでハロは隙あらば『マリュ〜

vv』といって胸に飛びつき、服の中に入ろうとするようになったのだ…



「はぁ…そりゃあ あれは人前で連れ歩くのは無理だよな…」



マリューのハロの話題が取り沙汰されていたしばらくの間、サイはため息をつくしかなかったという…














初SEED二次創作ですvv いかがでしたでしょう…あわわ… 各キャラのしゃべり方っていざ書いてみると難しい。

本編であんまり絡んでないキャラだったりするとなおさら…

これからも精進していきます…